あなたのアキレス腱の痛みは筋膜が原因かもしれませんーアキレス腱炎(周囲炎)と筋膜の深い関係ー
スポーツをしていてアキレス腱周囲を痛めたことのある人も多いですよね?
スポーツはもちろんですが、長距離歩行などでもアキレス腱周囲を痛めてしまうこともあります。
普通なら1か月もすれば治るはずですが、中には長引いてしまうケースも珍しくありません。
2~3か月、あるいは半年以上も症状が残ってしまうこともあります。
「1か月経つのにまだ歩く時に痛みが残っている」
「2か月過ぎたのに走ると痛い。いつになったら治るんだろう?」
「痛みで思うように運動できないけど、長く休んではいられない・・・」
「もうすぐ出たいレースがあるのに走ると痛むし腫れてしまう。間に合うかな?」
症状が長引くとストレスになるし、不安になりますよね?
そんな長引いてしまうアキレス腱炎の原因と改善方法を実際の治療例と共にご紹介します。
この記事の内容
痛めたアキレス腱周囲では何が起こっているのか?
先ず、アキレス腱炎とは何が起こっているのでしょうか。
簡単に説明すると、アキレス腱(ふくらはぎの筋肉とかかとの骨をを結ぶ太くて丈夫な腱)に負担がかかり炎症を起こしています。
基本的には使いすぎや急激な運動(過度なストレス)、身体の使い方などによってアキレス腱の炎症を引き起こします。
アキレス腱炎の種類について
アキレス腱炎は痛む場所によって、疾患名が異なります。
※滑液包とは:滑液という液体を含んだ袋のような組織であり、皮膚や筋肉、腱、靱帯などの組織と骨の摩擦を軽減したり、衝撃を吸収する役割を担っている
アキレス腱の表層には、パラテノンと呼ばれる膜組織が存在しています。
そのパラテノンは血流が豊富であり、アキレス腱の代謝を助けています。
また、アキレス腱とパラテノンの間には潤滑剤のような組織液が含まれており、摩擦を軽減したり保護したりもしています。
このようなことから、アキレス腱においてパラテノンは重要な組織なのです。
アキレス腱炎の重症度について
軽度の場合は数週間~2ヶ月程度で改善しますが、重度なものだと1年以上経っても改善しない場合があります。
また、運動を休止すれば痛みは緩和されるが、運動を再開するとすぐに痛みが戻ってきてしまうようなケースもよくあります。
では、なぜ、症状が完治せずに長引いてしまうのでしょうか?
なぜ、アキレス腱炎が長引いてしまうのか?
その原因は、筋膜にあるかもしれません!
アキレス腱に負荷がかかり微細な炎症を繰り返すことで血管や細胞が増殖し、組織が肥厚したり筋膜と筋膜が癒着したりして痛みを引き起こします。
実はアキレス腱を覆っているパラテノンは膜組織で下腿三頭筋というふくらはぎの筋肉の筋膜と連続性を持っているのです!
- いつまでも痛む(1ヶ月以上)
- 歩いたり、走ったりすると痛い
- 運動を再開すると痛みが戻ってくる
という場合は筋膜へのアプローチでかなりの改善が期待できます。
筋膜のトラブルには筋膜へのアプローチが必要です!
そもそも筋膜ってなに?
「筋膜」と言われてもなんのことか分からないという方が多いでしょうね。
筋膜とは、全身をウェットスーツのように包んでいる柔軟性のある膜のことです。
英語では fascia(ファッシャ)と言います。
ある程度伸び縮みするネットのような組織です。
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筋膜は他にも筋肉や骨、内臓、血管、神経を覆っていて、体の内側から外側までを支えているとても重要な組織なのです。
『第二の骨格』とも言われています。
筋膜の主な働きは次の3つです。
- 体を支える・保護する
- 筋肉の力を伝える
- 痛み・圧・テンションを感じる
使いすぎにより筋膜同士がくっつき、機能不全を起こします。
その結果として、2「筋肉の力を伝える」と3「痛み・圧・テンションを感じる」の働きに影響が出るのです。
筋膜が傷つくとどうなるの?
筋膜というのは細い線維でできたネットのような構造をしています。
全身を覆っている筋膜は、2~3層の膜によって構成されています。
簡単に言うと、3枚のシートが重なり合っているような感じです。
この3枚の膜は、お互い滑りあって自由に動けないといけません。
ところが、炎症などで筋膜が傷つくと、膜と膜の間にある潤滑剤(ヒアルロン酸という物質)がサラサラの性質からネバネバに変化してしまいます。
つまり、膜と膜の滑りを邪魔してしまうのです。
膜と膜の滑りが悪くなるということは、動きが悪くなることを意味します。
先ほどの図を見ていただくと分かると思いますが、筋膜は全身つながっている組織です。
どこかで筋膜の滑りが悪くなると、周りの筋膜を引っ張ってしまいます。
こうなってしまうと、筋膜が十分に伸び縮みできなくなります。
結果として関節や組織の滑走性が悪くなって、痛みが生じたりします。
さらに、
筋膜は外傷(肉離れ、骨折、捻挫等の様々な怪我)や使いすぎ(オーバーワーク)、使わなすぎ(ギプスによる固定など)が主な要因で、固く(滑りが悪く)なります。
また、1度固く(滑りが悪く)なった筋膜は自然に改善しにくいです。
とういことは、筋膜に対するアプローチをしなければ筋膜の固さ(滑りの悪さ)は残り続け、他の部位へ悪い影響(可動域制限、痛み、感覚異常など)を及ぼす可能性があります。
「いつまでも痛む」、「運動を再開すると痛みが戻ってくる」のは、根本的な原因にアプローチできていないからです。
動きが悪くなった筋膜をゆるめるのにストレッチやマッサージは効くの?
固くて滑りが悪くなった筋膜を元のように伸び縮みするようにするにはどうしたらよいでしょうか?
ストレッチ? それともマッサージ?
もちろん、ある程度の効果は期待できると思います。
でも、ストレッチやマッサージは筋肉に対して行うものです。
筋膜へのアプローチではないので、根本的な改善にはならないでしょうね。
最近は「筋膜リリース」と名の付くマッサージグッズが売られていますね。
「あれって効果あるんですか?」
という質問をよくいただきます。
結論から言うと、専門家のサポートがないと効果はあまり期待できないでしょう。
筋膜の固さというのは、3層の膜と膜の間にある潤滑剤(ヒアルロン酸という物質)がサラサラの性質からネバネバに変化して、
自由に動いていたはずの3枚のシート(膜)が、くっつきあって1枚の分厚いシート(膜)のようになった状態です。
その筋膜の固い(滑りの悪い)状態を元の状態に戻すには、筋膜に対してアプローチして、潤滑剤であるヒアルロン酸をサラサラの状態にする必要があります。
そのためには、筋膜の解剖学と生理学の知識が必要なんです。
やはり、専門的な知識と技術をもった筋膜の専門家に任せるのが一番効果的だと思います。
日本は筋膜の後進国なので、ここでの専門家とは海外(アメリカ、イタリアなど)で実績のある治療の
- 国際コースを日本で受講している
- 海外へ行って国際コースを受講している
ということで判断できると思います。
アキレス腱炎と筋膜の密接な関係
これは、強度の高いウォーキングをしたあとに、アキレス腱炎を発症させた女性について書かれています。
この文献ではパラテノン(ふくらはぎの筋膜と連続性を持っている膜組織)が、炎症により肥厚して組織の滑走性も低下させアキレス腱に過剰なストレスを与えているとしています。
しかし、この方に当院の治療法である筋膜調整(Fascial Manipulation®)を行うことで、パラテノンの肥厚や滑走性が改善され、歩行時の痛みもなくなったとのことが述べられています!
つまり、アキレス腱とパラテノンを介したふくらはぎの筋膜は密な関係があるということです!
アキレス腱炎と筋膜の密接な関係(補足)
さらに言うと、ふくらはぎの筋膜は太ももの筋膜と、太ももの筋膜は臀部の筋膜へと…このような感じで筋膜は頭の先から足の先まで連続性を持っており、影響しあっています。
そのため、患部のアキレス腱から離れた部位を施術することで症状が改善することもあるのです!
今まで治らなかったあなたのアキレス腱炎も筋膜へのアプローチで改善するかもしれません!
レースまであと5週間なのに痛くて走れない!窮地に追い込まれたマラソンランナーのアキレス腱炎は治るのか?
ここで改善例をご紹介いたします。
アキレス腱炎にお悩みだったのはマラソンランナーのKさん(50代 男性)。
月間の走行距離は、100~160km。
初めていらしていただいたのは2023年9/28。
そして、11/5にフルマラソンに出場予定がありました。
以下、Kさんのお話。
ランニングが趣味で、ランニング歴は15年になります。
月間で100~160kmくらい走っています。
2週間ほど前、いつものように走っていたら左のアキレス腱が痛くなってしまいました。
その後は無理をしないようにトレーニングの強度を下げていました。
11/5にフルマラソンに出場予定なので、それに向けて準備するために9/23に35km走ったのですが、そこから悪化してしまいました。
昨日(9/27)も走ってみたのですが、7~8kmで強い痛みが出て、「これ以上走ったら切れそう」な感覚になりました。
もうそれ以上は怖くて走れなくなってしまいました。
5週間後にはレースがあるので、なんとか改善して出場したいです。
アキレス腱炎で走れないKさんの症状を確認
先ずは、Kさんの症状を確認します。
痛む場所はここ!
アキレス腱の真上からやや外側にかけて。
※写真はご本人にご協力いただきました
続いて痛みの出る条件を確認します。
1.圧迫する(つまむ)と痛む
2.つま先立ちで痛む
3.片足でつま先立ちすると、もっと痛む
アキレス腱炎で走れないKさんの筋膜をチェック!
次は、Kさんの筋膜の状態をチェックします。
筋膜の固くなっている(滑りの悪くなっている)ところを触診で探していきます。
筋膜の固くなる(滑りの悪くなる)要因としては、次の3つが考えられます。
1.オーバーユース(使い過ぎ)
2.怪我(捻挫、骨折、肉離れなど)
3.使わな過ぎ(骨折などによる固定など)
Kさんの場合、過去に捻挫や骨折などの目立った怪我がなかったので、オーバーユース(使い過ぎ)が主な原因だろうと考えました。
そこで、膝、脛(スネ)、足部の筋膜をチェックしました。
その結果は次の通りです。
赤い点が痛む場所、黄色い点が筋膜の固く(滑りの悪く)なっている所です。
図に示した黄色い点をリリースしました。
筋膜の滑りの悪いところはなかなか
しかし、残念ながらその場で症状に変化は現れませんでした。
2回目の施術
2回目の施術は1週間後。
残念ながら、この1週間で「変化は感じられなかった」とのこと。
気を取り直して、改めて触診をし直しました。
その結果は、以下の通りです。
赤い点が痛む場所、黄色い点が筋膜の固く(滑りの悪く)なっている所です。
黄色い点をリリースした結果、つま先立ちをした時の痛みが大幅に改善されました。
特に、アキレス腱の内側と外側のポイントが功を奏したようです。
3回目の施術
3回目は1週間後。
Kさん曰く、「この1週間で3kmと12kmを走ってみました。少し痛みはありますが、アキレス腱が切れてしまうんじゃないか、という怖さはなくなりました。」
順調に改善しているようで、こちらもホッとしました。
今回は左足の6カ所と右足の2カ所をリリースしました。
右足を治療しているのは、「左足だけで走ってるわけではないですよね?もし、時間に余裕があれば右足も治療してもらえませんか」というKさんからのリクエストがあったからです。
4回目の施術
次回も1週間後。
Kさん:「この1週間で12kmを2回走ってみました。多少の痛みはあるのですが、怖さなく走れています。痛む場所も少し変わってきた気がします。左のアキレス腱はかなり良くなっているので、今日は右もお願いしたいです。」
ということでしたので、今回は右足にフォーカスして施術しました。
5回目の施術
5回目は2週間後でした。
Kさん:「この間に35km走ってみました。アキレス腱の痛みもなく、足がつることもなく走ることができました。30km以上走ると足がつることが多いのですが、今回はつりそうな感覚もでませんでした。治療の効果だと思います。」
レースまであと5日という日程だったので、あまり深掘りせずコンディショニングを重視して施術しました。
筋膜調整のセラピストとしてベストを尽くしました。
あとは、Kさんがよい状態でレースに臨めるよう祈るばかりです。
Kさんからのメール レースの結果は?
後日、Kさんからメールをいただきました。
果たしてフルマラソンを走り切ることはできたのでしょうか?
こちらがKさんからのメールです。(ご本人から掲載の許可をいただいています)
柿沼秀樹さま
お世話になります。
10月から4度施術をしていただいた○○と申します。
11/5 日曜日にNew York City Marathon に行ってまいりました。
結果は4時間18分で完走することができました。
今回目標にしていたのは、同じペースで走り切ることでしたが、最後までペースを崩すことなく、また脚がつることもなく、ゴールまで走り切ることができました。
そしてアキレス腱に不安もありませんでした。
ニューヨークのコースは大きな橋を5つ超えるため、きつい上り坂がある橋の途中で脚がつる人が続出します。
これまで自分も同様の経験がありますが、今回はそのようなトラブルもありませんでした。
本当にありがとうございました!
柿沼さんのおかげです。9月には少し諦めかけていたので、走り切れたことを本当に嬉しく思います。
ちなみに完走した後もランニングをしましたが、アキレス腱を含めて痛みを感じるところはありません。
取り急ぎご報告させていただきます。
これからも走り続けると思いますので、定期的にみていただけると助かります。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
○○
まとめ
アキレス腱炎・周囲炎になってから2カ月以上も
- 痛みが治らない
- 運動を再開すると痛みだす
のはおそらく筋膜が原因です。
筋膜に問題がある場合は、筋膜へアプローチするのが最も効果的です。
専門家に診てもらうことをおすすめします。
アキレス腱炎をしっかり治さないで競技復帰するのは危険です!
痛みがあると、痛みをかばうような動作となって、どうしても他の部分(膝など)に負担がかかります。
そうなると、今度は負担がかかってしまった所に問題が発生してしまいます。
アキレス腱をかばっているうちに膝の半月板を損傷する、なんてことにもなりかねない。
そんな状態でよいパフォーマンスをするのは難しいでしょう?
スポーツをやっていない方もアキレス腱炎・周囲炎にはご注意ください。
アキレス腱炎で傷ついた筋膜が10年や20年経って、腰痛の原因になったりするのです。
特に時間が経てばたつほど、アキレス腱は微細な炎症を繰り返し症状が慢性化して治りにくくなってしまいます。
たかがアキレス腱炎・周囲炎と甘くみないでしっかり治しましょう!